人間とウイルスの闘いは、好むと好まざるに関わらず、克服と侵略を繰り返し、その歴史の流れは数千年に及んでいます。医学の進歩は、科学の視点が採り入れられたことによって、細菌やウイルスの撲滅にエネルギーを費やしてきましたが、彼らも黙ってはいません。人間の科学力に対抗して、あざ笑うかのように、新たな細菌やウイルスを生み出しています。
自然界には未知なる病原体が
それだけでは終わらずに、20世紀の後半から21世紀にかけて、人間の驕りを戒めるように、野生動物や異質な環境に、これまで出会うことがなかった病原体の存在を、まざまざと知ることになりました。文明社会の進展が未開の自然環境に及ぶことで、それこそ、人間の進出に牙を剥くように、新たな病原体が、あたかも医学の進歩を、そして、人間への対抗する姿勢として、数多の出血性疾患を送り出しています。
克服したかのように見える病原体も、時には、耐性を持ち、時には、突然変異をすることで、その存在感を示そうとしています。
地球規模でのいたちごっこは、いつまで続くのか。これからもその闘いは止むことがありません。
BSL-4の病原体
BSLとは、Bio Safety Level(バイオ セイフティ レベル)の略で、WHO(世界保健機構)が示した、細菌やウイルスを初めとする病原体の危険度の指標で、レベル1からレベル4までの4段階に分けられています。そして、世に存在する病原体の中で、最も危険度が高く、治療法に有効な手立てがないもの、致死率の高いものをBSL-4と規定しています。
因みに、BSL-1に属するのは、ワクチンなど人体に無害な病原体。BSL-2は、インフルエンザa,b、はしか、サルモネラ属菌。BSL-3は、罹患すると重い感染症となる、結核菌、ペスト菌、ヒト免疫不全ウイルス、SARSコロナウイルスなどが属しています。
残念ながら日本ではBSL-4の施設はありません。施設ができると住民からの猛反対をうけるからでしょうね。
無いことにこしたことはありませんが、もしレベル4ウイルスが日本で発生したら、対策施設もないという事になります。
治療法がないBSL – 4 病原体
そして、BSL-4には、すでに、人間によって根絶された天然痘ウイルス、エボラウイルス、マールブルクウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、ラッサウイルス、南米出血熱ウイルス、ニパウイルス、ヘンドラなどが挙げられ、万が一、これらがバイオテロなどに使用されると、それこそ、救いようのないパンデミック現象を起こしかねないので、特に、取り扱いに慎重さを求められるのと同時に、BSL-4に属する病原体は、特に安全性に配慮した設備が整っている実験施設での、厳重な管理が必要とされています。
怖いマダニによる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
BS – 4 に分類された疾患の日本への侵入は、正しい知識と対応力があれば問題はありません。そこで、ここでは、マダニによる疾患、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)を取り上げてみました。
BSL – 4に分類されているクリミア・コンゴ出血熱ウイルスは、感染ダニや感染動物(多くは家畜用の羊)の血液や体液、臓器に接触して感染します。これに感染しますと、多臓器不全で死に至ることがありますが、日本では、そんなに問題にすることはありません。
しかしながら、日本で問題になっているのは、マダニによる感染です。平成25年1月にマダニによる重症熱性血小板減少症候群の症例が確認され、新聞紙上をはじめ、テレビ、雑誌で大々的に報道されました。実際に、平成27年2月23日現在の症例数は、愛媛県(20例)、宮崎県(19例)、高知県(14例)、鹿児島県、徳島県(9例)、広島県(8例)など、全国で114人のSFTS患者が確認されています。
感染ルート
日本に生息するマダニには47種類が確認されています。そのうち、SFTSの遺伝子検査でフタトゲチマダニ、ヒゲナガマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキラマダニの5種類から、SFTSの遺伝子があることが確認されています。しかしながら、これらの種すべてが人間への感染に関係しているかは分かっていません。
いずれにしても、マダニにかまれることで、SFTSウイルスに感染することは間違いないので、春から夏、そして秋までは、マダニの最も活動する時期になりますので注意が必要です。
症状
潜伏期間は、噛まれてから1週間から2週間程度で、症状としては、突然の発熱。それに食欲不振、
吐気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器系の症状が見られます。それに、頭痛や筋肉痛、神経系としては意識障害、昏睡、痙攣発作。リンパ節腫脹、呼吸器不全、歯肉出血、下血などが顕著に現れます。
治療と予防
他の出血熱疾患と同じで、このウイルスに効く特効薬はありません。したがって、治療は、もっぱら対症療法で様子を見ます。現在のところ、SFTSに効果のあるワクチンはありません。
予防は、まずはマダニに噛まれないことが大事です。そのためには、マダニが活動するシーズンの春から秋までは、草むらや藪にはできるだけ近づかないようにします。
どうしてもいう場合は、長袖、長ズボン、靴、帽子、足元を完全に防備して入ります。虫除け剤も役に立ちますの、常備したほうが賢明です。なお、マダニを媒介して日本紅斑熱やライム病などの発症が知られています。数は多くありませんが、罹患する人がいますので、あわせて知っておいたほうがいいでしょう。
教訓
人間は感染症を征服したような錯覚に陥っていますが、実は、とんでもないことで、未知の病原体は、これから先にも姿を現し、悩ませることになるのは、これまでの経緯を見ても分かります。インフルエンザも、もしもこれられの病原菌と組み合わさり協力な亜種への生まれ変わると非常に脅威です。
文明の進歩が、人と人の間の距離を縮め、勢いそれは、自然界に宿っている病原体との距離も狭めていることになります。
油断大敵、大ごとなパンデミックにならないよう、十二分の注意を払う必要があります。