昨年の8月、海外渡航歴のないデング熱に罹患した患者さんが埼玉県と東京都で確認されました。二人とも同じ学校に通う生徒で、発熱・頭痛があり、血液を国立感染症研究所で検査したところ、デング熱と診断され、国内発症としては70年振りということで、大きな話題になりました。二人とも都立代々木公園で蚊に刺されていたことがわかっています。

海外渡航者のデング熱感染は一年に200人ほど確認されていますが、今回のように渡航歴のない人が感染したのは、海外で感染した渡航者から、国内の蚊を介してのことと考えられています。

デング熱とは蚊に刺されることによって発症する、デングウイルス感染症です。

近年では、交通インフラが発達した影響で、流行しているエリアから航空機や船で蚊が運ばれてきたり、ビジネスマンや観光客が、渡航先で罹患して持ち込んだりする場合が多くなっています。

特に、熱帯、亜熱帯エリアに多く発症し、東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国、アフリカ、オーストラリア、中国、台湾などに見られ、世界各国で毎年1億人を超える患者が発症し、それよりも重症なデング出血熱も25万人が発症していると推定されています。

デング熱は、蚊が媒介するウイルス性感染症の王者と言ってもいいでしょう。

デング熱の感染経路

デングウイルスを媒介する蚊は、ネッタイシマカとヒトスジシマカの二種類があり、日本では、どこにでもいるやぶ蚊と呼ばれている、ヒトスジシマカが媒介役を果たしています。

蚊が媒介する感染症として最も有名なのに、マラリアがあります。それ以外にも、日本脳炎(発熱、頭痛、めまい、吐き気などが起こります)、チクングニア熱(発熱、発疹、関節痛が特徴的です)、ウエストナイル熱(発熱、脳炎が顕著に見られます)などが挙げられます。

デング熱の症状

デング熱に感染すると、症状がでるまで3日から一週間程度かかりますが、発症初期には、突然の高熱から、頭痛、顔面紅潮や結膜の充血などが見られ、その後は、関節痛や筋肉痛、倦怠感などが現れます。加えて、胸部、四肢、顔面など身体全体を発疹が覆います。

それでも大抵の場合、一週間もあれば回復します。中には子供に多い、重症型のデング出血熱もあり、ショック症状で死亡する場合もあります。

デング熱の治療と予防

治療については、ウイルス性の感染症特有の特効薬はなく、飽くまでも、熱性症にあわせた対症療法(点滴、解熱剤の処方)が主な治療法で、ほとんどの患者さんは予後もよく、後遺症もなく治っています。

予防については、ワクチンはありませんので、第一義は、蚊に刺されないことが大事です。そのためには、ネッタイシマカとヒトスジシマカの活動特性を良く知り、長ズボン、長袖の衣服を着用して、肌の露出を避け、素足のままでは出歩かない、虫除けスプレーを用意して万全の体制を作る、蚊の発生源である水溜りを作らない、海外渡航先では、特に蚊に注意をするなど気配りがかかせません。

都市化が蚊発生の温床に

最近の都市は、亜熱帯のような気候になっており、蚊の繁殖にはもってこいの環境になっています。
それだけに、小さな水溜りを自分の身の回りには作らないようにすることが大事です。例えば、空き缶や水槽、庭の水道周りや鉢の周辺。

そして古タイヤなど、蚊にとって絶好の場所になりますので、一層の注意が必要になります。