徐々に下火になってきているとは言え、収束には程遠いエボラ出血熱。
少しずつではありますが、治療の成果がでているようです。実際、いくつかの治療例が報告されています。
そのひとつに、ウガンダ出身の男性医師が、派遣されたシェラレオネでエボラ出血熱を感染しました。
急遽、ドイツの大学病院に搬送され、治療を施したフランクフルト大学の医師が、未承認薬2剤の処方。チーム医療によって、その患者が完全に回復したことが報告されています。
その経過を見てみましょう。
治療開始までの時系列
発症後5日が経ってから、患者は空路搬送されました。発症時の熱は38度を超え、消化器系の症状として、下痢を繰り返していました。
特定の遺伝子を増幅させて検査するPCR法によって、エボラウイルスに感染していることが証明されたのですが、患者は医師であるだけに、自ら抗エボラウイルス活性がある、抗不整脈薬(アミオダロン)の他に、抗菌薬のセフトリアキソンの投与を行なっています。
BSL-4隔離病棟に入院
BSL – 4 に分類されてエボラ出血熱患者は、当然、それに対応した施設に入院をさせられます。患者は発症後6日になって、フルンクフルト大学の施設に入りました。当時の所見は、体温39.0℃。かなりきつめの筋肉痛と腹痛があり、血圧は正常ながら頻脈がありました。
炎症の度合を診断するC反応性タンパク質値の上昇や、同じように炎症性疾患の診断に使われるIL‐6の値が上昇していましたので、その時点で、抗不整脈薬(アミオダロン)の処方を中止しています。
ファビピラビルを使用
入院して3日目。肺、腎臓、消化器系に多臓器不全が発症、炎症性を判断するためにCRPを随時観測し、その数値にあわせ諸々の抗菌薬、抗真菌薬を継続的に投与しています。
8日目に入って、未承認薬ながら効果があると見られている、RNAポリメラーゼ阻害薬のファビピラブル(商品名アビガン )を使い始めました。
この薬は、富士フイルムの関連会社である富山化学工業がインフルエンザ治療薬として開発したのですが、エボラウイルスにも効果が期待されている薬で、腎不全の兆候が見られたため、残念ながら投薬は中止されましたが、臨床試験でも効果が確認されているため、エボラ出血熱の治療薬として脚光を浴びることになりそうです。
参照:インフル治療薬「アビガン」
一進一退の状況が続く
入院4日目。発症からすると9日目になります。この頃になると、呼吸状態に異常が発生。肺水腫の所見も見られる呼吸不全になり、それに加えて、血管から血漿蛋白が周辺組織に漏れる血管漏出症候群が見られたため、機械を使って換気機能を上げる方策が採られました。
さらに日にちが進んで、11目から13日までの期間、未承認で臨床開発中のフィブリン由来ペプチドであるFX06の静脈内投与を始めました。
症状の好転
FX06の投与と時を同じくして、患者のウイルス血症に改善が見られるようになって来ました。そのタイミングで、エボラウイルスの特異抗体価が著しく上昇し、血管漏出症候群、呼吸器症状も改善の傾向を示し、症状の好転が見られるようになりました。
この事例は、多臓器不全、血管漏出症候群など、重い患者の治療に際して、換気を助け、抗菌薬や抗真菌薬の投与、腎臓機能を代替する療法をミックスした治療が、危機的状況にあった患者の命を守り、エボラウイルスに対して十二分に対応できる余地のあることを証明しています。
また、FX 06は、エボラ出血熱の治療に十分使用できる貴重な薬剤であることが分かりました。
有効な治療法の開発に期待
予防ワクチンや有効な治療がない中で、相変わらず、対症療法が治療の主役になっています。
しかしながら、限られた治療法を施しながら、その間に、診断のスピードが上がり、薬剤の開発が進み、ウイルスに勝つための免疫機構が働くような時代が来ることを期待して、日ごろから注意を怠らないようにしたいものです。